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札幌地方裁判所 平成9年(ワ)5160号 判決 1999年3月26日

原告

佐藤修美

被告

株式会社三洋会館

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自三六〇万四六四四円及びこれに対する平成八年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、各自一三五五万八三三二円及びこれに対する平成八年一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

一  前提となる事実(争いのない事実及び引用の証拠により認定できる事実)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成八年一月二八日午前一〇時四〇分ころ

(二) 場所 札幌市中央区南八条西一一丁目三番地所在の信号機のある交差点

(三) 加害者 被告徐愛子(以下「被告徐」という。)

(四) 被害者 原告

昭和四二年六月二四日生まれ(事故当時二八歳)

職業 主婦

(五) 加害車両 普通乗用自動車(札幌三三て八八三二)

加害車両の使用名義 被告株式会社三洋会館(以下「被告三洋会館」という。)

(六) 被害車両 普通乗用自動車(札幌五一む六〇二〇)

(七) 事故態様 被告徐は、前方不注視により、前記交差点に赤信号で停車中の被害車両に、被告徐運転の加害車両を迫突させた。

2  責任原因

被告三洋会館は、加害車両の運行供用者として本件事故と因果関係のある傷害による損害について賠償する義務がある(自動車損害賠償保障法三条)。

被告徐には、前方不注視の過失があり、本件事故と因果関係のある損害について賠償する義務がある(民法七〇九条)。

3  傷害の内容及び治療の経過

原告は本件事故後、次の病名により、以下の治療を受けた。

(一) 傷病名 頸椎(頸部)捻挫、背部挫傷及びバレ・リュー症候群

(二) 治療状況

(1) 星井整形外科

通院 平成八年一月二八日から平成八年四月三〇日まで

(実通院日数 五〇日間)

(2) ひえぬき医院

平成八年三月二五日受診 一日のみ

(3) 北海道整形外科記念病院

検査 平成八年四月二七日から平成八年四月三〇日まで

(実通院日数 二日間)

(4) 医療法人明和会札幌明和病院(以下「明和病院」という。)

通院 平成八年三月二七日から平成八年六月二六日まで

(実通院日数 八日間)

入院 平成八年六月二七日より平成九年三月三日まで

(入院日数 二五〇日間)

(5) はらや整形外科

通院 平成八年一〇月八日から平成九年四月五日まで

(実通院日数 七四日間、甲八)

ただし、原告が本件事故による損害の基礎として主張しているのは、平成九年二月二一日まで(実通院日数六六日)である。

二  争点

原告の受傷及び後遺障害の有無、本件事故との因果関係

(一)  原告の主張

原告には本件事故後から頸部のはり、痛みが存したが、その後平成八年三月下旬から発汗、立ちくらみ、発熱等の症状が頻繁になり、そのための治療を受けてきた。これらの傷害は、本件事故の結果生じたものである。

また、平成九年三月三日に症状固定と診断された後も「頸部痛、背部痛、めまい、吐き気、易疲労感、微熱」などの症状があり、軽度で短時間の家事には従事できるもののデスクワークもまだ不可能な状態にある。これらの事情からすれば、原告の後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表後遺障害別等級表九級に該当し、今後三年間にわたり、三五パーセントの労働能力喪失があると解すべきである。

(二)  被告らの主張

(1) 損害、因果関係

<1> 本件事故による被害車両の損傷は極めて軽微なものであり、その修理費用も五万一三五六円であった。

このような軽微な追突によっては原告主張のような傷害は発生しない。

<2> 本件事故後、原告が受診した星井整形外科においては加療見込期間五日間と診断された。しかも、星井整形外科の星井医師は、寝汗は本件事故と無関係との説明を原告にしている。

<3> 北海道整形外科記念病院では、レントゲン検査、MRI検査ともに異常がなかったものの疑問符付きでバレ・リュー症候群との診断がされ、五月一三日には明和病院において、その後はらや整形外科においても同じ診断を受けているが、そもそもバレ・リュー症候群自体、原因が解明されておらず、定説がないものである。

しかも、原告は明和病院での入院期間中頻繁に外泊しているのであり、真に入院が必要であったのか疑問である。

<4> 原告には神経質な面があり、内縁の夫に対する不満や、両親の離婚、兄の死亡など原告が多大なストレスを受けていた状況下で、自律神経失調症を発症したと考えられる。

以上から、原告の主張する損害は発生していないし、仮に発生したとしても本件交通事故と因果関係はない。

(2) 過失相殺

原告の主張する損害と本件事故との間に因果関係があるとしても、前記(1)<4>のとおり、原告の損害は多分に原告の心因的要因に起因するものであるから、過失相殺の類推適用により損害額が減額されるべきである。

(被告らはこの点を明示的には主張していないが、これまでの進行経過から、当然にこの点を主張しているものと解される。)

第三裁判所の判断

一  因果関係

1  証拠によって認定できる原告の症状及び治療経過は以下のとおりである。

(一) 原告には、本件事故以前には頸部のこり、痛み、微熱、立ちくらみ等の症状はなかった。本件事故当日は、特に症状はなかったが、翌日(平成八年一月二九日)起床すると首から背中にかけて痛みとはりがあり、吐き気もあった(原告本人)。

同日、星井整形外科を訪れ、病名「頸部捻挫、背部挫傷」、「今後約五日間の安静加療を要する見込である」との診断を受け(乙四の六枚目)、五日後に来院するように指示されたが、吐き気があるため同月三一日にも同病院に行き、以後同年二月及び三月は二〇日ずつ通院し治療を受けていた。

なお、被告らは当初加療五日の診断を受けたことからそもそも原告の受傷は軽微なものであったことの裏付けとして主張するようであるが、この点は星井整形外科において五日間で治癒する程度のものという診断をしたわけではなく、とりあえず五日間投薬と湿布で様子をみる趣旨であると解することができる。このことは現にその後三か月にわたって同整形外科に頻繁に通院していることからも認められる。

(二) 本件事故から数日後に発熱、発汗症状があったが、平成八年三月二〇日ころからこの症状が頻繁になったため、平成八年三月二五日、ひえぬき医院を受診し大きな病院で検査することを勧められた。そのことを星井整形外科にも訴えたが(乙四の六枚目)、本件事故とは無関係という説明を受けた。同年八月三〇日ころより、微熱、発汗の症状がひどいため、星井整形外科の紹介により、明和病院神経内科において、診療を受けることになり、北海道整形外科記念病院でのレントゲン検査でも具体的異常はなかったことから、バレ・リュー症候群が疑われた。

原告は、更に他覚的所見として、発熱、起立性低血圧もあった(甲四)。

原告は明和病院での通院治療を継続していたものの、微熱、発汗、めまいなどの症状が改善されず、日常生活においても、短時間の軽微な家事を短時間行うことができるものの、長時間の家事労働をするとめまい、立ちくらみ、著しい倦怠感があることから治療に専念するため平成八年六月二七日から同病院において入院治療を受けることになった(原告本人)。

明和病院においては、神経内科治療(安定剤、漢方薬による薬物治療、自律訓練)及び頸椎捻挫に対する治療(筋弛緩剤による薬物治療とホットパック)を受けていたが(甲七の一ないし一五、乙三、原告本人)、これと平行した整形外科での専門的治療の必要性を指摘されていたことから、平成八年一〇月八日から、明和病院から徒歩で通院可能なはらや整形外科において、通院による整形外科的治療(鍼及びレーザー治療)を開始した(乙三、原告本人)。

はらや整形外科においても頸部捻挫とバレ・リュー症候群との診断を受けた(甲二)。平成九年三月ころまでに、徐々に症状の改善が見られたものの、今後は顕著な症状の改善が期待できないこと、ある程度の家事は可能と判断されたことから、平成九年三月三日をもって症状固定と判断され、同日明和病院を退院した(甲四)。

2  右のような治療経過には特に不自然なところはなく詐病の疑いは全くない。また、本件事故と右のような原告の傷害との間に因果関係があることは明らかである。

被告らの主張に沿って付言すれば、頸椎捻挫の場合、レントゲン検査、MRI検査によって異常が認められないことがあることは周知の事実である。

また、明和病院への入院の必要性についても、同病院が必要と判断したものであり(甲四)、また、入院中に外出が多い点は、整形外科の治療を併用するためのはらや整形外科への通院と解することができる。外泊は週末を中心に自宅に戻って洗濯等を済ませた、身体を動かすことも治療に役立つと明和病院から言われたとの原告の供述も、神経的な症状が主体であったことを考えれば十分理由のあることであって、これを疑う事情もない。

3  本件衝突の程度は被害車両の写真の状況(乙一の一及び二)、修理状況(バンパー交換費用、乙二、乙六、原告本人)からみて比較的軽微であるといいうる。しかしながら、それにより原告が主張するような傷害が発症しえないと解することはできない。

衝突の瞬間の被害者の姿勢や被害者の体格、素因によっては軽微な衝突でも傷害の程度が大きくなる場合があるのであり(甲一一)、本件もそのような場合であると解する余地がある。

4  被告らは原告の症状と本件事故との間には因果関係のないことを裏付けるものとして医師の意見書(乙三)を提出する。しかし、この意見書をもって、本件事故と原告の訴える症状との間に因果関係がないとはいえない。

(一) バレ・リュー症候群の診断は慎重であるべきであるとし、原告の症状、治療経過から判断してバレ・リュー症候群ではなく、不安神経症、自律神経失調症等の状態にあったのではないかとしているが、原告がバレ・リュー症候群かどうかはともかくとして、原告の主張する症状が本件事故と無関係であることを何ら示すものとはなっていない。

(二) 原告主張の症状改善のために入院の必要性が乏しいとする理由が全く記載されていない。

5  以上を総合すれば、原告の主張する症状と本件事故との間には因果関係があると認められる。

二  後遺症

症状固定時の症状としては、頸部のこりと痛み、立ちくらみ、微熱の症状があり、家庭での日常生活は、多少無理をしてもある程度は可能な程度まで回復している。もっとも、仕事は軽微なものでも、まだ無理と思われると診断されている(甲四)。原告も家事労働はかなりできるようになったと供述している(原告本人)。これらの点を考慮して、三年間にわたり五パーセントの労働能力喪失を認めるのが相当である。

三  心因的要因

原告は本件事故の一〇日前に兄を亡くしていること、本件事故により就職活動に支障が出るなど、ストレスの多い状況におかれていたこと、愁訴の内容には自律神経系のものが多く認められること、その他治療経過等一切の事情を考慮すれば、原告の訴える症状の発症あるいは遷延化に心因的要因が大きく影響していることが認められる。

したがって、損害の衡平な分担の観点から、民法七二二条二項を類推適用して、損害額の四割を減ずるのが相当である。

四  損害額

損害額については、以下のとおり認定する。

1  治療費 六万三一三〇円(弁論の全趣旨) (請求額六万三一三〇円)

2  通院交通費 〇円(立証なし) (請求額二万二一二〇円)

3  入院諸雑費 三二万五〇〇〇円 (請求額三二万五〇〇〇円)

前記認定のとおり二五〇日間の入院は本件事故による傷害の治療のため必要であり、この間一日当たり一三〇〇円の諸雑費を認める。

4  休業損害 二九八万八八〇三円 (請求額三七三万九七二六円)

原告は事故当時主婦をしていたと認められるから、賃金センサス平成八年第一巻第一表産業計女子労働者学歴計全年齢平均の年収額(三三五万一五〇〇円)を基礎として、事故発生日(平成八年一月二八日)から症状固定日(平成九年三月三日)までの四〇一日間につき、入院期間中(二五〇日)は一〇〇パーセント(合計二二九万五五四八円)、その余の一五一日間については平均五〇パーセント(合計六九万三二五五円)の休業損害を認めることとする。

5  逸失利益 四五万六三四〇円 (請求額三二六万一八三八円)

前記二のとおり。右4の年収を基礎に三年のライプニッツ係数(二・七二三二)により中間利息を控除する。

6  入通院慰謝料 一八〇万円 (請求額二〇〇万円)

症状固定までの入通院期間を考慮。

7  後遺症慰謝料 四〇万円 (請求額三二六万一八三八円)

前記のような後遺症の程度を考慮。

8  心因的要因による減額 二四一万三三〇九円

前記三のとおり。1から7の合計の四割。

9  既払金減額 三一万五三二〇円

10  弁護士費用 三〇万円

1から7の合計から8、9の金額を減額した額の約一割を相当な額と認める。

11  総合計 三六〇万四六四四円

第四結論

以上から、原告の請求は三六〇万四六四四円及びこれに対する本件事故日から年五分の割合による遅延損害金の範囲で理由があるから、この限度で認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 金子修)

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